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岡田守弘さん 岡田麻株式会社・代表取締役 |
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第1回 |
麻の秘められた能力 |
2002年5月2日 坂本 隆司
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"麻"という言葉から、あなたはどんな事柄を思い起こすでしょう。「さわやかな清涼感で夏は麻に限る」とか、「サラッとした感触が心地良い」とか、特にこれからの汗ばむ季節、麻の衣類の持つ風合いに引かれる人も多いでしょう。また、今ではすっかり見ることが少なくなってしまいましたが、蚊帳を通り抜けてくる心地良い風を懐かしむ年配の方もおられることでしょう。 その反面、大麻取締法によって、日本国内での栽培は厳重な許可制になっており、衣類での親しみやすさとは正反対の距離の遠さを感じさせます。 身近にありながら、植物そのものは目にすることが無く、古くから愛用されていながら、先人たちがどのように付き合ってきたのか、私たちは意外にも麻のことを良く知りません。 おもしろエコ人の西川嘉廣さんから紹介で菱川貞義暫定編集長が、能登川町で古くから麻織物業を営んでいらっしゃる岡田麻株式会社の岡田守弘さんを訪問したと聞きました。 お米の不耕起栽培の関係から『びわこ市民研究所』の活動に関心を持って頂いていたようです。「麻のほうもいろいろ話したい」「2時間でも3時間でも話しますよ」とおっしゃっていると聞いて、これはおもしろい話が聞けそうだとさっそく伺いました。聞けば聞くほど興味深い「麻のお話」です。 安土城祉の近く、能登川町にある会社を訪ねると岡田さんは笑顔で出迎えてくれました。「何からお話しましょうか?」とにこやかに話す岡田さんの笑顔に暖かい人柄がにじみ出ています。 |
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岡田さん― 日本では昔から、麻を上手く使って生活に必要な様々なものを作ってきました。繊維として衣料やロープ、袋はもちろん、畳用の糸、蚊帳、下駄の緒、種子はたんぱく質の豊富な食物、照明用の油として、葉や根は薬用として、皮を剥いだ芯の部分は、壁材、屋根材として、残りの部分も紙の原料として利用でき、まさに無駄になる部分はありません。それだけでなく、使い終わって廃棄する時も土に埋めれば自然にかえり、肥料となります。環境に対しても非常に優しい素材です。 |
衣類は馴染み深いですが、そんなに利用価値があるとは知りませんでした。そう言えば、近江八幡にあるヴォーリス設計の古い郵便局の壁に麻が下地として使われているのを見せてもらったことがあります。 岡田さん― まだまだ麻の利点はありますよ。栽培するにもたいして肥料もいらず、農薬も使わなくてすみます。昔の人ってすごいなと思いますよ。草を衣料にしたり、油にしたり、すごい知恵だなと思います。麻の用途の広さは、昔から生活の知恵として連綿と受け継がれてきたものです。種子も栽培されていた頃は普通に食べていたそうで、地元の年配の人に聞くと、店で売られていたのをよく買って食べたと話してくれました。 思い出しました。「七味唐辛子」の中に入っている大きな粒、あれが麻の実ですね。ほかにいなり寿司やがんもどきにも入っていることがあります。"畑の肉"と呼ばれる大豆と同じくらいタンパク質を含み、しかも大豆タンパクより消化吸収に優れているといいます。また人間の体ではつくることのできない8種類のアミノ酸もすべて含まれています。油を絞れば上質な食用油が採れます。この油は、食用として使えるほか、電気が普及する以前は照明のための燃料としても利用され、現代ではディーゼル燃料の代わりに使用できるように研究中といいます。 |
岡田さん― この能登川のあたりはもともと麻の産地でして、朝廷に麻布を献上したりしていました。この産地に織物の加工場を作ろうということで、私のおじいさんの代に現在の会社の前身である近江織物を設立したわけです。それが、大正2年のことで、麻は当時、服の"芯地"として多く使われていたそうです。以来この地で麻織物業を営んできました。織物業というのは分業が多く、糸を作って、織り上がったところで一度、精錬加工といういわゆる洗濯を行いまして、つぎに乾燥して生地幅をセットする。そして、精錬さらしという工程を経て、染めに入る。そういう分業体制なんです。織物屋さんから整理加工屋さんに行って次は縫製屋さんと。この産地では整理加工された反物までを作っていたわけです。 |
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近江では古くから上質な麻織物が作られ、有力な産地のひとつになっていたそうですが。 岡田さん― このあたりで作られた麻の反物は、近江上布(おうみじょうぶ)と呼ばれていたんです。これは麻100%です。昔の近江上布を見ると、ほとんど苧麻(チョマ)か大麻を使っていて、これが本来の伝統的な麻織物です。綿は、今ではなじみがありますけれども、まだまだ日本では2〜300年の歴史しかないと思いますよ。一般の衣料などは、麻が主に使われていました。 上布は、細い麻糸を独特の技法で織りあげ、加工した上質な麻布のことで、近江上布以外のよく知られているものに、小千谷縮(おじやちじみ)で有名な越後上布や石川県の能登上布、そして沖縄の宮古上布と八重山上布などがあります。 岡田さん― これだけ役に立つ麻ですが、衣料が主でその他の利用はまだ少ないですね。うちの会社でも繊維以外のさまざまな製品に使えないものかと研究しているところです。製品化まであと1つ2つ越えなくてはならないハードルがありますが、環境にもいい商品になると思います。期待してください。それといま私が関心を持っているのはチョマなどで繊維を取るために皮を剥いだ残りの部分です。いわゆる中材の部分ですね。この部分はほとんど利用されず、廃棄処分になっています。強度もありますし、加工しやすく、面白いんで研究しようと思ってるんですよ。断熱材とかインテリア用とかに利用できるのではと思っています。 |
乾燥させた芯の部分を見せてもらったが、なるほど岡田さんの言っているように、見た目も白くてきれいだ。これなら工夫次第でさまざまな用途が考えられそうです。なるほど麻は、人の暮らしに役立ち、そのうえ再生できる循環サイクルの中で地球環境の保全にも貢献できる貴重な植物ですね。 石油や木材を今のペースで使い続ければやがて枯渇することは明らかです。無計画に消費することは、貴重な資源を枯渇させるだけでなく、地球の環境にとっても悪影響を与えます。麻を、貴重な石化資源・木材資源の代替品として利用することにより、持続可能な循環型の社会を実現するのに貢献できますし、二酸化炭素を吸収し、酸素をつくりだすことで地球温暖化への対策のひとつにもなります。 |
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テレビや新聞などではドラッグとしての大麻が報じられることが多いですが、"麻の秘められた能力"を大いに見直しました。 |
(つづく)
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『麻』ひとくちメモ 体内で合成できずに食事でしかとることができないのが「必須脂肪酸」で、なかでもリノール酸とαーリノレン酸は重要な栄養素です。体内でリノール酸からはアラキドン酸が合成され、α−リノレン酸からはEPA・DHAが合成されます。 この両方の必須脂肪酸を含む食物は少ないのですが、大麻の種子にはこれらのが3対1という理想的な割合で含まれています。必須脂肪酸をバランスよく取ると、中性脂肪、コレステロールを低下させ、血液の粘度を下げて血流がよくなる。アレルギーを緩和したり、ホルモンの乱れを正常にする働きがあるとされ、アトピー成性皮膚炎、動脈硬化、心臓血管疾患、ガンや神経性難病などの防止に効果があると言われています。 中国では昔から麻の実を「麻子仁(ましにん)」と呼び、長寿に効果がある食物として愛用されています。その効用は、体や内臓を修復し、体内の根元となる活動力を増すとされています。 |
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