岡田守弘さん
岡田麻株式会社・代表取締役

第2回

さまざまな麻の種類

 
2002年5月9日 坂本 隆司
 前回は、根っこから花の先や種まで、繊維素材以外にも建材や壁材、食物、薬、燃料として、植物の全てがさまざまに利用できる麻の利点について聞きました。では、そもそも麻とはどういう植物でしょうか。岡田さん、その辺の事を教えてください。

 岡田さん― 麻は、古くから「大麻」のことをいいましたが、広い意味では、大麻に類似した繊維の取れる植物や繊維のことです。"タイマ"というのは中国語読みで、日本語では"オオアサ"または、"オオヌサ"と読みます。私がやってます麻の研究会でも"タイマ"と言う人が多いんですが、"タイマ"と呼んでしまうと誤解されたりしますから"オオアサ"と呼ぶようにしています。他にはヘンプと呼ぶこともあります。
 日本の麻織物産業としては、ヘンプよりもチョマ、リネンを使うことが多いんです。あと、ロープなどに使うジュート、マニラ麻ですね。麻といっても6〜7種類、もっと広くいうと25種類ぐらいあるんですよ。世界中のいたる所にある感じです。
リネンの産地といえば、ロシアとかヨーロッパ。高さ1メートルほどの一見ごく普通の草です。 チョマは中国が多くて、次にフィリピン、ブラジルです。
岡田さんが持っているのは紡績前の麻の繊維
 育ちすぎると繊維が太くなってしまいますので、1メーター2〜30センチぐらいの時が質が良いのです。作れば年に3回ぐらいできますが、中国や韓国では年1回の収穫です。だいたい田んぼのサイクルと似ていて、3月〜4月に種まき、で7月後半ぐらいに収穫になります。

 このヘンプ(大麻)は、古くから繊維や種子を採るために栽培され、最も古いもので縄文時代の鳥浜遺跡(約1万年前)から大麻繊維や種子が発見されています。それから、大麻は、三草四木(三草:麻、紅花、藍 四木:桑、漆、茶、こうぞ)の一つとして古くから人々の生活に利用されてきました。
 岡田さん― 大麻は取締法の関係から許可を受けたごく一部で栽培されているだけですが、チョマやリネンは同じ麻といってもまったく別の植物で、こちらにはいわゆる向精神性の成分は含まれていませんし、栽培することも自由です。マニラ麻やジュート麻も別の植物で、これは熱帯のものです。それぞれがぜんぜん違う植物で、松とイチョウぐらい。いや、もっと違うぐらいですね。

 えっ、そんなに違うんですか。同じ植物で品種の違いぐらいに思っていました。サンプルを見せていただくと、色も太さもさまざまな種類があります。そこで、ちょっと調べてみました。

 主な麻の種類と特徴を表にまとめると
呼び名 別名 分類 主な生産国 用途
苧麻(ちょま) ラミー、からむし、まお イラクサ科、多年生 ブラジル、中国、フィリピン 衣料用
亜麻(あま) リネン、フラックス アマ科、一年生 ロシア、ポーランド、チェコ 衣料用、資材用
大麻(たいま、
おおあさ)
ヘンプ 桑科、一年生 ロシア、ルーマニア、韓国 ロープ
黄麻(こうま) ジュート シナノキ科、一年生 バングラディシュ、タイ、インド 麻袋、カーペット基布
マニラ麻 アバカ バショウ科、多年生 フィリピン ロープ、帽子
サイザル麻 サイザル セキサン科、多年生 メキシコ、西インド ロープ、カーペット
洋麻(ようま) ケナフ アオイ科 タイ、インド、中国 壁材、ひも、パルプ代用
さまざまな種類がある麻の繊維
 そして、衣類によく使われる苧麻と亜麻の共通する特性は、だいたい次のようなものです。
(1)繊維が強く、耐水性に優れ、水に濡れると強さを増す。
(2)繊維の中で最も熱伝導率が大きいので、体温を外部に放熱させ、接触冷感がある。
(3)繊維は中空孔をもつため、水分の吸湿、発散が速く、汗ばんでも肌にベトつかず、乾きも早い。
(4)亜麻は亜麻色、ちょ麻は白く絹様光沢があって、美しい。
(5)混紡性に優れ、相手の繊維と融合して新たな風合いが生まれる。

 我が国の古い時代には、葛(くず)、藤(ふじ)、等の繊維も広く利用されましたが、繊維の採取、加工が比較的容易で、着心地も良かった大麻、チョマ等が、「綿」の普及まで、衣類原料の代表的存在でした。綿は江戸時代に日本に入ってきたとされ、その後、現代まで広く使われています。しかし、コットンは農薬なしには栽培することは大変困難で、アトピー性皮膚炎や化学物質過敏症の方には合わない人もいます。最近では無農薬、無漂白で栽培・加工した「オーガニックコットン」が市場に出回っていますが、麻も有力な素材として見直されてきています。

 岡田さん― 麻は、3ヶ月ほどで成木になりますし、狭い場所でも収量を上げられる。翌年もまた同じ様に採れて、短時間で自然循環のサイクルができる。木でこんなに成長させようと思ったら何年かかるかわからないですよね。これからの環境のためにも有望な植物です。ただひとつ気になるのはケナフです。ケナフという外来種をはたして日本でたくさん使って、あとの処理についても地中に埋めでもいいのか、その辺は注意していくべきだと思います。やはり日本の風土にあった植物を育ててやるんだったらいいけど、南方型の全く違う品種を持ってくるっていうのはどうかと思います。


 少し前に新しいパルプ資源として盛んに取り上げられていましたね。安易に飛びつくのではなく、将来の影響までしっかり見据えて取り入れていくべきですね。

 岡田さん― そう思います。でも、いずれにしても麻は、経済的、文化的、環境的な利用価値の高い作物であり、循環型社会の構築に向けて、必要なバイオマス(生物資源)の一つと考えています。麻に限らず植物がこれからの地球を救うと思いますよ。こういう植物繊維を中心としたものが、必要なものとして、当たり前に拡がっていくようになればなと願っています。

 そんな期待がかかる麻ですが、戦前には日本中のいたるところでごく普通に栽培されていて、農村の主たる商品作物のひとつでした。しかし残念ながら現在の日本では存亡の危機にあります。日本には古くから伝わる麻に支えられた伝統文化も多く存在しました。
 「麻のことを語らせると長くなりますよ。朝まで話しますか?」と笑う岡田さん。この能登川の本社では、麻をめぐる仲間や、環境、イベントを共に主催する友人と夜を徹して議論することも度々だとか。次回はそのあたりも含めて、話は進みます。
(つづく)
 『麻』ひとくちメモ
 バイオマスとは、生物体を原料にしたエネルギー資源の総称で、地球の自然環境の中で繰り返し得られるエネルギーのことです。木材、笹、竹、麻、菜種、農業・林業廃棄物、未利用植物、下水汚泥や食品廃棄物、海藻や漁業廃棄物などがあり、これらの資源を有効に活用することが環境・資源問題の解決策のひとつとして考えられています。
 アメリカでは、1999年8月に「バイオ製品とバイオエネルギーの開発及び促進」という大統領令が公布され、2010年までにバイオ製品とバイオマスエネルギーの消費を現在の3倍に引き上げるという方針が発表されました。
 また、EU(欧州連合)の「再生可能エネルギーの戦略・行動計画に関する白書(1997年)」の中では、総エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を95年の5.4%から2010年には、11.5%までに高め、うち4分の3をバイオマスで確保するという目標が掲げられています。
 このように世界的に注目されるバイオマスですが、麻もそのひとつとして大きな貢献ができると期待されています。
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