岡田守弘さん
岡田麻株式会社・代表取締役
 

第6回

麻のことをもっと知って欲しい

 
2002年6月27日 坂本 隆司
 地に足のついた環境活動をどう広げていくか。活動に関わっている人の大きなテーマとなっています。『びわこ市民研究所』でも市民と行政、企業、学生といろいろな人どうしのつながりが見られますが、いま、市民の知恵を集めて環境保護に役立てていける、そんな“仕組み”が必要になってきているのではないでしょうか。
 岡田さん― 自然と人間の共生した場所として里山がありますけれども、里山というのは自然と人間の暮らしが交わっている特異な場所ですね。自然のままにほっておいたら、みな3年で雑木林になってしまいます。田んぼであるがゆえにトンボが飛んでいたり、カエルがいたりするわけなんです。人間がある程度力を加えることによって、守られる自然もあるわけなんです。このへんは昔からの知恵なんですね。県などの行政が水とか森とか山とかを大切にと言ってますけど、もっと人間と暮らしの接点を見るべきだと思います。あまりにも自然ばっかり見ることは、経済とは相反しますよ。人間の暮らしそのものは、実は自然を利用しているわけで、現実的な計画を立てて環境活動をやっていくべきだと思います。
 里山や田んぼは、次世代の環境を担う子供たちの自然学習の場としても大切な場所ですね。自然との付き合いが継続的に行えるような仕組みも必要になっています。

 岡田さん― 次の世代を担う子供たちは大きなテーマです。子供たちにゴミ拾いを経験させるという時代じゃないです。楽しみながら自然の大切さを感じてもらう。それと、環境の問題でも、リサイクルに注目が集まっていますがリサイクルはコストがかかる。これは大きな問題だと思うんです。リサイクルよりもリユースした方がいい。もう一回使おう、とことん使ってしまって、で、リサイクルに回す。これよりもっとすばらしい循環は、自然循環です。野菜、畑すべてそうです。余った生産物を土の中に埋めておけば、なくなってしまう。次の栄養にもなる。地球にやさしい。麻でできたものも、植物ですから自然に還元しやすい。たい肥になりやすい。リサイクルやリユースよりもこれが一番です。

 そうですね。大量生産大量消費の社会は一見豊かで快適な社会に見えますが、後の時代に大きなコストを負担させることになりますし、資源の面からもいよいよ成り立たなくなってきています。ゴミをどうするかより、ゴミを生産しないということが一番ですね。

 取材でいろんな人にお話を聞いていて『びわこ市民研究所』に登場する人の熱意には感心させられることが多いのです。岡田さんもそんなひとりです。そのようにさまざまな活動に取り組むエネルギーや動機は何ですか。と聞いてみました。
 岡田さん― エネルギーは、一言で言えば自分の子供に親の背中を見せるにはどんな背中を見せたらいいのかと、自分の生き方として子供に何を伝えていくか。まあ、模索しているというのが正直なとこですね。あと自分自身の夢と言うたらあれですけど、もっと何かあるんじゃないかと、もっといいことがあるんじゃないかと、麻の産業がこれで終わるんじゃなしに展開する、もっと麻というのは機能面でも活用面でも有効なものじゃないかなと思ってるんですよね。それを世の中に出していきたい。織物としての麻だけではなしに、もっと植物の原点に遡って考えたら、暮らしを支える力を麻は持っています。
 麻は、そのまま土に埋めても自然に帰りますし、いろんな用途があります。麻に限らず植物が地球を救うと思います。油を取り、木質を取り、衣食住に関わる多くのものを再生可能な植物によって得られる。石油を今までのように使いつづけることはできないわけですから、こういう植物から採れたものが、社会に必要なものとして当たり前のように拡がっていけば、と思います。たとえば、家を建てる時などでも、ごく普通に「これは麻のボードです」となるように。そんな麻のよさを生かした製品をできるだけ世の中に出していきたいというのが夢であり、目標ですね。
繊維を採った後の麻の芯材
 ごく普通に暮らして、身の回りにあるものが環境にもやさしいという時代になればいいですね。自然を守るのが当たり前になり、自然を守ることが経済的にもプラスになれば、自然の守ろうという言葉は要らないですよね。麻はその考えに役立つ植物ですね。

 麻の有効性、種類、歴史、麻のさまざまなお話を伺っていたらあっという間に時間が経ってしまいます。麻についていろいろと知らないこともたくさんあってとても楽しいお話でした。岡田さんもおっしゃっていましたが、麻を使った新製品やこれまでの成果をこの研究所でぜひ書いていただきたいと思います。環境に役立つ麻がもっと広く知られるようになればと思っています。
 『麻』ひとくちメモ
 蚊帳 その(2)
 麻の蚊帳の利点のひとつは、クーラーによる冷えすぎを防いでくれることです。
 人は眠りにはいると体温が下がっていきます。その時にクーラーがかかっていると必要以上に身体を冷やすことになり、体の不調やだるさを感じることになります。蚊帳の中は涼しく、湿気も少なくて快適に眠ることができます。

 雷と蚊帳
 昔は雷が鳴ると大急ぎで蚊帳の中に入ったものです。これは、決して迷信、おまじないの類ではありません。麻は絶縁物として碍子(がいし)に使われていているぐらいで、電気を通さないためです。そのことから本麻の蚊帳の中に入っていれば安心だとなったのです。また、小さい子供さんがいる家庭では、電磁波対策として蚊帳の人気が復活してきているとも聞きます。このほかにも殺虫剤に敏感な人にも蚊帳は便利なものになっています。
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