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第6回 あげはちょう |
2004年9月2日 みわゆうこ |
「この夏の自由研究は、ケムシやイモムシをいろいろ捕まえてきて、どんなチョウになるか観察しようか?」とあさひ(娘小4)に提案したら、「気持ち悪いさかい嫌や」と即座に却下された。なのにひょんなことから幼虫を4匹飼うことになった。実家の山椒の木についていた緑色のいかにもアゲハ系でーすって感じの幼虫と、もう少し小さくて茶色とクリーム色のこぎたない幼虫と2匹ずつ。全然動かないのでふたのない容器に入れて車に置いといたら、数分後に逃亡していて車中が一時パニックになった。走り出すと意外とすばやい。 彼らはものすごくよく食べる。山椒の枝をどっさりと虫ケースに入れておいても、一日でほとんど葉はなくなってしまう。毎日毎日蚊の巣窟である裏の畑に山椒をとりにいくのはなかなか重労働だ。でもあのたくさんの小さな手できゅっと葉をつかんで、無心に顔を動かして葉を食べていく姿はとても愛らしい。目玉みたいに見える黒いマルはぜったい目玉やと思っていたあさひは、ほんとの顔は先っちょなんだよと教えると「ほーかー。そう思うと何かかわいい」と幼虫たちのお食事の様子をおもしろそうに観察していた。虫が苦手な義母も、いつのまにか山椒採りに協力してくれるようになった。こわがりの現(息子小1)も「今日は緑のが下に落ちとったで」「もう葉っぱなくなってきたで」などと報告してくれる。それにしても何の幼虫なんやろう?アゲハやといいなあ。何度も図鑑を見るけどもう一つ自信はない。茶色の方は完璧小さいガの仲間やろ…と思ってたら、ある日茶色くんは手品のように緑のアゲハ候補くんになっていた。 一匹のアゲハ候補くんがケースの壁に登って動かなくなった。心持ち体が小さく縮んだ気がする。次の日には緑色のさなぎになっていた。どきどきしながら一日に何回もケースをのぞいたけど、さなぎはぴくりとも動かない。当たり前か。そのうち二匹目がさなぎになった。今度は茶色のさなぎ。どうして色が違うのだろう?どっちかは中で死んでしまったんやろか。もう体内で子を身ごもってるプレママの気分よ。 最初の子がさなぎになってからもう一週間以上経つ。今日から二泊三日のキャンプに行く日だった。半ばあきらめ半分にケースをのぞくと、さなぎの色がすこし薄い黄色になっている。あれっと思ってよくみると、さなぎはもぬけの殻になっていて、枯れた山椒の枝に黒い筋の入った大きなチョウがじっと静かにとまっているじゃないですか。アゲハチョウ。こんなきれいなのを見るのは初めて。一点の曇りもないすっきりした羽の模様。ふうわっと一回はばたきすると空気がしゃららんとゆれる。声をひっくり返してみんなを呼んだ。りんとした生まれたてのアゲハチョウの前で、あさひと現と義母と四人、「おぉーー」とちょっとひかえめな歓声をあげて拍手していた。 甲子園より、オリンピックより、この夏一番の感動。 |
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(つづく) |