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第5回 かまきり |
2004年8月5日 みわゆうこ |
秋の盛りのこと。水口スポーツの森の散策道をぶらぶら歩いていたら、木の欄干に中腰になったカマキリが一匹。そしてその三十センチくらいむこうにアカトンボが一匹。これはすばらしいシャッターチャンスだぞと私は持っていたカメラを構えた。それにしてももう少し近寄ってくれないかな。これじゃ両方の虫を入れたら小さくて迫力ないな…そう思いつつ三分、五分。時間は過ぎていく。カマキリは確かにトンボを見つめているが、じっとしていっこうに動く気配がない。トンボも、羽をへの字におろしてリラックスしているみたいだ。鳥のさえずりと風の音だけが聞こえる。自分の呼吸を意識しつつさらに数分。 私はしびれを切らして、『とりあえず一枚アップで撮っとこう』と、カマキリに焦点を合わせた。 シャーコン。 その音であっという間にトンボは飛んでいってしまった。し、しまった。でもカマキリは一瞬ビクッとしただけで、トンボの行方を見ることもなく、また同じポーズに入った。あたりにまたさっきと同じ静けさが戻った。もうどれくらいこの虫はここにいたのだろう。気まぐれに人間が出した音のために獲物を取り逃がしても、それはそれとして受け入れて、また新しい獲物が目の前に現れるまで、ひたすら待ち続ける。 ずっとずっと。そういえば今森光彦さんが、『昆虫の生態を写真におさめるのは、信じられないくらい「待つ」力が要ります』とおっしゃっていたことを思い出す。 やっぱり動かないカマキリ。でもこの静かな姿が「生きる」ということなんだ。私が、自然の中の虫や植物を見るのが好きなのは、物言わない生き物たちから、ひたすらに生きていくことを教えてもらえるからかもしれない。 |
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(つづく) |