2003年12月25日 百木一朗
シチズンの一生涯愛用できる腕時計  

お話を聞いた、CS企画室長の滑川正敏さん(左)と時計開発推進課長の樋口晴彦さんです。

 
「定期点検いたします。箱を送るので時計を入れて送ってください」 「ああ、2回目の点検だな。アンケートも書くのですね。……唯一不満なところは…… 」
という感じでしょうか、継続的なコミュニケーションがあります。
 
左が「ザ・シチズン」の初期の製品。それに比べて右の機種では針がより見やすくなっています。
*「ザ・シチズン」について詳しくはホームページで見ることができます。
http://www.citizen.co.jp/

 前回の、永持ちする……に続き、今回は一生ものの腕時計に注目しました。

 環境の事を考えると、リサイクルも大事だけれども、品物を使い捨てでなく永持ちで使うことが大切だ、と僕は考えます。人のくらしという面からみても、ひとつの品物を大事に使い続けることはとても良いことだと思うのです。そのためには品物が永持ちに出来ていなくてはいけません。

 腕時計 「ザ・シチズン」は、「一生涯、愛用される」時計でありたいとパンフレットで語っています。
 その名称からもわかるように、この時計はシチズンの代表機種であり、性能と品質が極めて高度ですが、アフターサービスでも特別なものをもっています。
 具体的には、10年間無償保証と生涯修理対応を実施しています。 これは時計業界以外の製造業でも聞いたことのない、アフターサービス体制です。

 この製品とサービスがなぜ生まれることになったのか、シチズン時計株式会社でお話を伺ってきました。西東京市の本社で応じてくださったのは「ザ・シチズン」開発メンバーである時計開発推進課・課長の樋口晴彦さんと、CS企画室・室長の滑川正敏さんです。

 上記のような僕が考えていることをまずお話しすると、
「環境という事でしたら、まず当社にはエコドライブというものがあるのですが……」と言われてしまいました。
 エコドライブというのは、光発電で腕時計を動かすしくみで、一般の電池を使用する必要がありません。こちらの方が同社としては環境に対応した商品の位置づけになっているようです。

 しかしあえて、ザ・シチズンの「一生涯の愛用」という所を聞きたいとお願いしたら、これについても大変熱心に説明していただけました。
 まず、大変精度が良くクォーツとしては世界でも類がない、年差プラスマイナス5秒であること、マイスターの称号をもつ熟練者が手で組み立てていることがあります。ケースやバンドの材質、加工にも特別なものがある。これらで、永年の使用に耐える質と品位を作りあげているということです。樋口課長の説明です。

 さらには、次のような問題意識があったといいます。
滑川CS企画室長が語ります。
「今から十年ちかく前にこれを発売したのですが、その少し前から、製品を原点から見つめ直さないといけないという考えが出てきていたんです。というのは、作ればどんどん売れる時代から、お客様の満足が最も大切だという事に変わってきた。
 トップから、もっとお客様とコミュニケーションしよう、ということが出てきました。
 この製品を一生涯使ってもらおう。ということは、そのお客様とずっとお付き合いしていただくこと。感想もご不満もお聞きしたい、っていう気持ちがあるんです」

 そこで「ザ・シチズン」は無償保証期間を10年とした。その10年の間に3回の定期点検を行う。これは無料です。そのあとは有償修理になるが、修理部品をずっと持っていて一生涯いつでも修理に対応するのです。

 しかし、それは何十年かもしれませんね。百年かもしれない。
 点検と修理の体制をずっととるというのは、実はとても大変な事のようです。
「修理部品を置きますが、将来のどこかの時点では、中身を代替え品でそっくり入れ替えるということもあり得ます。それでご了承いただきたいとしています」
 作る人の仕事が、売ったら終わりではなくて、その後も続く。次々に低価格の新製品を出す今の世の中と反対の方向のようにも見えます。

 保証期間10年の間に約束している3回の無料定期点検はどのように行うのでしょうか?

 まず買ってもらった時に、お客さんに登録をしてもらう。そしてカスタマーカードを発行します。 だから顧客の氏名・住所などと購入日が名簿として残っています。
 一方、「ザ・シチズン」の裏蓋にはシリアルナンバーが刻印されており、そのナンバーも登録されます。
 点検時期になると案内書と輸送箱を届けます。 お客さんは輸送箱に時計を入れてシチズンへ送り返します。

 点検内容は、電池交換、パッキングの交換、時間精度の点検、防水試験、ケース・バンドの洗浄などとなっています。

 滑川さん 「点検案内を送る時にアンケートを入れて、お客様の声を書いてもらっています。すると、仕上がりに大変満足という言葉を非常にたくさんいただきます。定期点検があることだけでも素晴らしいと。
 しかし、中には不満の声もある。お叱りを受けることもある。でも、これが大切なんですよ。 お客様がどこに不満を感じてらっしゃるか、なかなかわからないものなんです。
 不満は何か、がわかっていれば、それに対応して努力もできます。
 社内には嫌われますけどね(笑)。お客様がこう言ってるって、難しい要求しますから」

 例えば、使用者に年輩の人が多いからか、時計の針が見えにくいとの声が何件か寄せられたという。
「年齢と共に、秒針が読めなくなってきます、って。
 それで改良型を出す時に針を太くして、見えやすいように変えました。実物を見てください。こちらが初期の型で、こちらが新しく見えやすくしたものです。このようにご意見を次期商品に反映させています。」

 「ほかにも色々あります。針の動きが目盛りの線と合うのが気分が良いというので、それを要求する方もあります。特に12時の位置でピシッと合うようにと。
 それから、バンドの汚れをどのように清掃すればよいか教えてという、愛用を感じさせるものもあります」

 どんな製品でも、使っているうちにはスリ傷がついたり、使い方の影響をうけるものです。普通、製品が一旦お客さんの手に渡ってしまうと、メーカーは使われている途中の自社製品を見るチャンスがありません。修理などを依頼されることはあっても、自社系列のサービスセンターへ入ってくるとは限らず、数も少ないと思われます。
 それに対し、この「ザ・シチズン」のメンテナンス体制では無料定期点検であるために依頼比率も高く、点検整備しながら、お客さんが使っている途中の自社製品状態を確認することができます。これは大変参考になることだそうです。

 これだと、メーカーは売った後もその製品を見続けている。調整したり、部品を交換したりする。作る人の役割はその間もずっと続いているのです。
 今回の腕時計の事例は、これからの「ものづくり」のあり方を示しているように思えてなりません。

(この項おわり)
Copyright (C)2001 Biwako Shimin Kenkyusho all rights reserved