さらには、次のような問題意識があったといいます。
滑川CS企画室長が語ります。
「今から十年ちかく前にこれを発売したのですが、その少し前から、製品を原点から見つめ直さないといけないという考えが出てきていたんです。というのは、作ればどんどん売れる時代から、お客様の満足が最も大切だという事に変わってきた。
トップから、もっとお客様とコミュニケーションしよう、ということが出てきました。
この製品を一生涯使ってもらおう。ということは、そのお客様とずっとお付き合いしていただくこと。感想もご不満もお聞きしたい、っていう気持ちがあるんです」
そこで「ザ・シチズン」は無償保証期間を10年とした。その10年の間に3回の定期点検を行う。これは無料です。そのあとは有償修理になるが、修理部品をずっと持っていて一生涯いつでも修理に対応するのです。
しかし、それは何十年かもしれませんね。百年かもしれない。
点検と修理の体制をずっととるというのは、実はとても大変な事のようです。
「修理部品を置きますが、将来のどこかの時点では、中身を代替え品でそっくり入れ替えるということもあり得ます。それでご了承いただきたいとしています」
作る人の仕事が、売ったら終わりではなくて、その後も続く。次々に低価格の新製品を出す今の世の中と反対の方向のようにも見えます。
保証期間10年の間に約束している3回の無料定期点検はどのように行うのでしょうか?
まず買ってもらった時に、お客さんに登録をしてもらう。そしてカスタマーカードを発行します。 だから顧客の氏名・住所などと購入日が名簿として残っています。
一方、「ザ・シチズン」の裏蓋にはシリアルナンバーが刻印されており、そのナンバーも登録されます。
点検時期になると案内書と輸送箱を届けます。 お客さんは輸送箱に時計を入れてシチズンへ送り返します。
点検内容は、電池交換、パッキングの交換、時間精度の点検、防水試験、ケース・バンドの洗浄などとなっています。
滑川さん 「点検案内を送る時にアンケートを入れて、お客様の声を書いてもらっています。すると、仕上がりに大変満足という言葉を非常にたくさんいただきます。定期点検があることだけでも素晴らしいと。
しかし、中には不満の声もある。お叱りを受けることもある。でも、これが大切なんですよ。 お客様がどこに不満を感じてらっしゃるか、なかなかわからないものなんです。
不満は何か、がわかっていれば、それに対応して努力もできます。
社内には嫌われますけどね(笑)。お客様がこう言ってるって、難しい要求しますから」
例えば、使用者に年輩の人が多いからか、時計の針が見えにくいとの声が何件か寄せられたという。
「年齢と共に、秒針が読めなくなってきます、って。
それで改良型を出す時に針を太くして、見えやすいように変えました。実物を見てください。こちらが初期の型で、こちらが新しく見えやすくしたものです。このようにご意見を次期商品に反映させています。」
「ほかにも色々あります。針の動きが目盛りの線と合うのが気分が良いというので、それを要求する方もあります。特に12時の位置でピシッと合うようにと。
それから、バンドの汚れをどのように清掃すればよいか教えてという、愛用を感じさせるものもあります」
どんな製品でも、使っているうちにはスリ傷がついたり、使い方の影響をうけるものです。普通、製品が一旦お客さんの手に渡ってしまうと、メーカーは使われている途中の自社製品を見るチャンスがありません。修理などを依頼されることはあっても、自社系列のサービスセンターへ入ってくるとは限らず、数も少ないと思われます。
それに対し、この「ザ・シチズン」のメンテナンス体制では無料定期点検であるために依頼比率も高く、点検整備しながら、お客さんが使っている途中の自社製品状態を確認することができます。これは大変参考になることだそうです。
これだと、メーカーは売った後もその製品を見続けている。調整したり、部品を交換したりする。作る人の役割はその間もずっと続いているのです。
今回の腕時計の事例は、これからの「ものづくり」のあり方を示しているように思えてなりません。 |