西川嘉廣さん
西川嘉右衛門商店会長

第14回
生活の中に“ヨシ”を見る
2001年11月8日 菱川貞義
10月19日(金)に朝日新聞大阪本社1階アサコムホールで「ヨシとの共生」と題したトークショーがありました。
 案内パンフレットによると、パネリストは西川嘉廣(ヨシ研究所長)さんと、嘉田由紀子(琵琶湖博物館研究顧問)さんと、鳥飼和夫(大津市環境保全課主幹)さんです。これはきっと楽しい話が聞けそうだと思い、先週、ちょっと紹介した「ヨシ博物館がやってきた」展示会を見学した後、トークショーに参加しました。
 
 トークショーは期待以上におもしろく、まるで落語か漫才のような場面もあり、会場は大受けでした。
 鳥飼さんのお話を聞くのははじめてでしたが、これがまた西川さんに負けず劣らずの魅力を感じました。
 「大津市がヨシ保全活動をはじめて10年たった。それまでは行政も水質は気にするが生態は気にしていなかった。でも、魚やヨシが少なくなって、水質が悪化すると、ようやく水質に生態が深くかかわってきていると思うようになった。」

 「でも、『行政が干拓やらでヨシをとっといて、いまさら市民にヨシを守れ。ヨシをちゃんと刈ってくれ。なんてどういうこっちゃ』ってよういわれるんですわ。」

 「ヨシ刈りとか、ボランティアを忘れて好きでやっている。暗いのはだめ。自分も楽しんで勉強になることをやる。でないと続かない。」
 

 とっても気さくで飾らない感じが好印象でした。

 

 嘉田さんのお話を聞くのは2度目ですが、いつも私たちに大切な“まなざし”を発見させてくれます。
 「水を上水道・下水道という管に閉じこめたり、船から車社会になったり、生活から湖が分断されてきたなかで、湖沼文化が消失していき、水が汚染されてきた。」

 「だから環境問題を考えるとき、湖と生活が入り交じっていた昔の良い社会を見直すことが大事で、そのために、田んぼや水路とか、水のあるところを楽しむことからはじめよう。」

 「『多様な精神は多様な文化から生まれ、多様な文化は多様な生態から生まれる。』ということで、自然と近い暮らしをもっと楽しもう。」

 「昔は村落が自分の領域の内湖、田んぼ、ヨシ帯も自分たちで自主管理していたんです。一級河川とかいって国が管理するようになったが、ゴミを散らかすほうももちろん悪いんですけど、ゴミをちゃんと清掃できるかというとできないし、草刈りもできない。江戸時代の自主管理、地域毎の自主管理を復活するべきではないか。共有地を取り戻そうではないか。と私は主張しております。」

 ヨシは誰のものなんだろう。
国のものじゃないんだよ、地域のものなんだよ。
自分たちのものなんだよ。
自然は守ったり保護するものではなくて、
自分たちが生活の中でかかわってるものなんだよ。
かかわる中で自然が元気になっていく。
元気な自然には元気な子どもが集まってくる。
 西川さんのお話でも、生活の中に自然があることの大切さが表れています。

 「親父の歌日記は元旦からはじまって、歌で日記になっている。ここに歌ってある内容はほとんど、『ヨシは水を浄化するとか、鳥などの住み処になっているとか、琵琶湖にとって大事なものだ。』というものだ。けれども、この日記を書いた頃は、人間の意志で琵琶湖総合開発やら干拓事業やらで、琵琶湖からヨシをどんどんなくしていった時代。その時に親父は学者ではなかったけど、毎日、毎日、目の前にヨシ原を見ながら、現在いわれているようなヨシの重要性を生活者として感じ取ってたんです。生活者としての気持ちを込めた歌。ヨシは守らんといかん。ヨシが減っていっては大変なことになるという気持ち。当時はこんなのは時代錯誤だと思われていた。」

 「ぼくがささやかなヨシ博物館をつくったのもこの歌日記がきっかけ。最初は親父がこんなのを書いたのを知らんかった。遺品を整理していたら出てきて、それからヨシを勉強しはじめた。そうしたら時代が変わって重要性が世界中で認識されるようになってきた。それで、いまは、ちょっとは罪滅ぼしにと思ってやっている。」

 

 西川さんがどうしてヨシを研究しようと思い立ったのかが分かりました。生活者としてヨシを思うお父さんの心にうたれたんですね。

(次回につづく)

 鳥飼さんや嘉田さんのところへも、一度ちゃんと取材に行きたいです。

穂が銀色に輝いていました。たくましいヨシとさみしげなヨシが同居している感じでした。

 

 

 ヨシとずいぶんなかヨシになったせいか、ヨシの写真を撮るのも少し上手になった気がします。


 京都嵯峨芸術大学の金氏先生の論文『葦のデザイン』も、西川さんの論文『ヨシと人の暮らしとの係わり』と同様に、おもしく読ませていただきました。
 論文は、金氏さんがヨシのデザインを考えるきっかけになった背景から、
・ヨシの特徴
・ヨシ群落の水質浄化のはたらき
・ヨシの刈り取りについて
・暮らしにどう利用されてきたか
・屋根材としてのヨシ
・現代のヨシ利用
・ヨシズ、スダレ
・ヨシの文様
などがデザイナーの視点で詳細に語られており、魅力的な文章になっています。
 
 そして、『考える葦』の章では、ヨシを保護すると同時に刈り取ったヨシを積極的に活用し、琵琶湖の自然の中でヨシ群落を活性化させることにつなげるための、“ヨシを使ったデザインの可能性”についてなされた研究が報告されています。
 
 以下に論文のままを少し紹介します。
 
 新しくデザイン素材として考える場合、前に述べた伝統的な方法に加えて次のような方向が見出せる。

1.編む以外に形を構成する方法を探る
 ヨシの構成方法を伝統的手法とちがったものに変え、新しいフォルムを作り出す。(差し込む、嵌める、挟む、接着、糸を通す、結ぶなど)
 
2.組み合わせ素材の発見
 伝統的に利用されてきた組み合わせのほかにヨシの風合いを活かす素材を見出し、ヨシ利用の可能性を広げる。(石、皮、金属、塗料、染料、合板、木材、紙、ダンボール、陶器、布などとの組み合わせ)
 
3.短い部分の有効利用
 高品質のヨシの端材を活用する。(アクセサリーなどに利用)
 
4.ヨシを原材料として使う
 ヨシを粉砕して再構成し、二次素材として利用する。(チップボードや合板に加工する、和紙に加工するなど)
 

5.従来は使われていなかった分野にヨシを利用する
 照明器具、ディスプレイ素材としての利用など。
 
6.デザインモチーフとしての可能性
 ヨシそのものの植物としての形態や四季の変化、群落の美しさ、また周辺の動植物などの自然をデザインモチーフとして展開する。(レターセットなどのグラフィックデザイン、オーナメントデザイン、団扇、扇子など)
 
7.工作教材としての利用
 ヨシを使った遊び、おもちゃのデザイン、環境教育とも結び付く教材の開発など。
 
(来週ももう少し紹介したいと思います)
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