西川嘉廣さん
西川嘉右衛門商店会長

第15回
ヨシを媒体にした人のネットワーク
2001年11月15日 菱川貞義
 近江八幡でささやかな催しがありました。
人のつながりのあったかさを感じさせてくれました。

 声文(こいぶみ)-耳をすまして
といって、滋賀県立大学大学院・杉元研究室が主催し、旧八幡郵便局にて11月2〜4日に公開されたイベントです。
 
 このイベントは、
建築を学んでいる学生たちが、近江八幡市の中心市街地活性化基本計画策定委員会のワーキンググループとして、町を調査してきたなかで、
旧市街地のお宅を一軒一軒訪問し、「町の人に伝えたい気持ち」をヨシでできた「箋」に書いていただき、その「箋」を約500枚集めて展示されたものです。

 「箋」に使われた“ヨシ”はもちろん、ご存知の西川さんから提供されたものです。
そして、このイベントも西川さんに教えていただき、いっしょに訪れました。


 ちょうど日が暮れたところだったので、旧八幡郵便局はとても幻想的なふんいきでした。
大正10年にウイリアム・メレル・ヴォーリズによって建てられた歴史的建造物で、ヴォーリズが私たちに残し、語りかけるものを後世に伝承することを目的に「一粒の会」が旧八幡郵便局舎保存再生運動を展開している建築遺産でもあります。
 
 中に一歩、足を踏み入れると、そこにはさらに幻想的な世界がひろがっていました。

 

 とにかく、ぼくと西川さんは、西川さんが書かれた「箋」を探してみました。
でも、まったく見つかりません。
 
 「落選したのかな」
という西川さんのジョーク(?)に、
会場の杉元先生や学生たちは、真顔で、
「そんなことはありません。全員の方を紹介しています。」
「でも、おかしいな。大切に保管してあったはずなのに。」
 西川さんの「箋」は見つからないけど、せっかくだから
記念写真をパチリ!
 「ありました!ありました!」
奥から封筒を携えて学生が飛びだしてきました。
「あんまり大切にしまっておいたので.....。」
 
 「やっぱり、手書きじゃなくワープロで打ったから隠しておいたんだろう。」
「ちがいますって。」
 
 こうして無事に「箋」は西川さんの手によって会場に飾られました。
(これはフィクションではありません。念のため。)
 会場は落ち着きをとりもどし、
いくつか「箋」を読んでみました。
少しずつ、一人ひとりの“思い”が心にしみていきます。
人の意見のなんと貴重なことか。
人の意見を聞くことのなんと大事なことか。
そしてみんなの意見を共有することの大切さを再認識させてくれました。
 
 約500の“思い”たちは、後日まとめられるそうです。
できたら、びわこ市民研究所でも紹介していきたいと思います。

 そうでした。
「箋」にしたためられた西川さんのメッセージを紹介しておきます。
 
 近江八幡の最も重要な文化遺産である八幡堀の環境は、長年にわたるボランティア活動によって現状にまで改善された。今後は八幡堀のさらなる水質向上を目指し、官民が力を合わせて取り組むべきで、それが結局は近江八幡市の活性化につながると考える。また、旧市街の中心的商店街にある古いたたずまいの“空き家”を利用して、住民が集う「文化サロン」や観光客をも惹き付ける地元ならではの様々な「ミニ博物館」を作ることも一考に値するであろう。

(次回につづく)


 先週に続いて、金氏さんの論文『葦のデザイン』を紹介します。
 
<現在までに提案してきた主なデザイン>
●照明器具1
 やや細口のヨシの先端部分を使って、綿糸で編み、筒状に巻きシェードとした。隙間から漏れる光とヨシを透過する微妙な光がヨシの自然な色合いを際立たせる。先端を切り揃えず、あえて不揃いのままにして自然な形状の柔らかさをだした。電球の排熱を利用した回り灯籠を内蔵してあるので、見え隠れする光の動きが、さざ波に反射するきらめきのように感じられる。伝統的な編む技法をそのまま現代に生かしたデザインといえる。

 

 

デザイン/森田春昭

●照明器具2
 短く切り揃えたヨシを和紙に接着し、同心円上に重ねて繭型に形成してある。ヨシの切り口から漏れる光が個性的な照明である。ヨシを使った形態の構成方法として新規性が高く、制作に難しい要素もあるが、様々な展開の可能性が大きいデザインである。
 
●照明器具3
 シェードは、二本のヨシを縦に割き、その隙間に和紙を挟む構造としている。和紙は、ヨシを原料に漉いたもの。ベースは琵琶湖・愛知川河口付近の浚渫土(湖底の汚泥)および信楽粘土を混合し構成したもの。浚渫土の有効利用もテーマとしたデザインである。

 

 

デザイン/金氏脩介

●時計1
 細いヨシを半割りにし、板に接着したものを文字盤にしたデザイン。木材や竹とも違うヨシの自然な色艶の美しさをさりげなく生活に取り入れる試みである。“ヨシは和紙である”とするイメージを変えることを意図したデザイン。
 
●時計2
 琵琶湖浚渫土と信楽粘土を混合し構成したものにヨシを差し込んだデザイン。これも和風のイメージを変えることを意図したデザインである。

 

 

デザイン/金氏脩介

●家具
 ヨシを原料にしたチップボードの使用を想定し、編んだヨシを嵌め込んだ扉板に特色を持たせたシステム家具。家具材としての可能性を検証した試作。テーブルや天井埋め込み型の照明も含めたトータルなデザインを提案している。コスト、生産性など研究の余地は残しているが、実用化は充分可能である。
 
●建具
 季節に応じて障子戸を葭戸に替える伝統を現代の生活に復活させる試み。ドアに障子と葭戸を内蔵させるアイデア。

 

 

デザイン/坂本英之

●パブリックファニチャー
 琵琶湖周辺の公共施設(駅、公園、バスストップなど)に設置する提案。公共施設に地域特性を持たせることを意図したコンセプトモデルである。実用化するには今後、屋外用の素材開発やメンテナンスシステムの検討が必要である。

 

 

デザイン/岡村修一

(デザイン提案の残りは来週のお楽しみ)
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