西川嘉廣さん
西川嘉右衛門商店会長

第31回
とにかくやってみヨシ!
2002年3月14日 菱川貞義
 額田さんは帰られましたが、楽しい会話の勢いはまだ衰えません。
 
 
西川さん
「今日はもう少しいろんな話をしましょう。こないだ、ぼくに会うためだけにわざわざ、ここまで来られた方がいるんや。山形大学農学部の神尾先生。この方は東大の学位論文がヨシの研究だったんです…。」
 
「神尾先生がいま一番やっておられるのが、“ヨシは悪い”ということなんです。『ヨシはメタンを出すので温暖化につながる』という説なんです。それで、実際に舟に先生と乗って、この辺のヨシ原を回ったんです。そしたら先生は『この辺のヨシはメタンは大丈夫』と。長年の経験から、測定しなくてもここのヨシは大丈夫と太鼓判を押されたんだが。」

 
大林さん
「メタンて、根からじゃなく堆積からでるんでしょ。なんか理解しにくい話やな。」
 
西川さん
「私はヨシとかかわるのは“ヨシとなかヨシ”の人ばかりじゃなくていいと思うんです。関心を持ってくれている人がいるのがいい。」
 
 ヨシだって、いいと思う人とそうは思わない人がいる。ちがう人間が見ているのだから当たり前のことなんですが、ヨシ博物館の館長としてはおもしろくないはず。なのに、この西川さんの言葉はとても重たく感じました。同じ意見をたくさん集めるより、かかわってくれる人をたくさん集める…。
 
 西川さんがいつも協調されていることのひとつに、「人と自然がかかわる大切さ」「人と人がつながる大切さ」があります。まず、かかわりあうこと。そして楽しむこと。それから何かに気づいたり、はじめたりしていけばいい。もし何も起こらなくても“かかわった”“楽しんだ”という事実の積み重ねが大事だと。ぼくはこんな言葉を聞くたびに、西川さんから“幸い”をわけてもらったような気分になります。そして、きっと西川さんは“幸いのかたまり”だと思います。

 西川さん、そういえば先日の新聞で、良かれと思ってやっているヨシ刈りが、水面からギリギリに切っているためにヨシが窒息して育たなかったり、逆に琵琶湖を汚染しているという記事がでていましたね。
 
西川さん
「ウソではないと思うが、ヨシ刈りには『近江商人が江戸時代からヨシを刈ることで商売をしてきた』歴史がある。悪いことだったら、何百年も人間が続けるわけがない。さっきの漢方と同じで、少しの研究で、ある条件下でやったことでは、ヨシ刈りが悪いとはいえないと思いますよ。ヨシは刈らないといけないということを、人間は長い経験で得てきたんですから。」
 
大林さん
「除草剤の話でいうと、水草は水面からちょっとでも上にでた草はめっぽう強いんですよ。水面より下の草は簡単に除草できるんです。」
 
西川さん
「水位の話になると、琵琶湖の場合は人間が水位を調節してるんです。昔は自然が調節していて、水位が上がるということは雨がたくさん降ったりしていたわけで、だからみんなしかたないと認めていたんです。でもいまは人間が管理している以上、だれかの意見のもとに水位が決められている。人間が決めるといろいろ問題が出てくる。」
 
 
「ヨシに理想の水位はあるが、他にも漁業やいろんな営みが琵琶湖を利用していて一部の利害だけでは決められない。ヨシ業者は少ないから、がんばって訴えても意見は通らない。昔なら、去年はヨシによかったけど、今年は○○によかったとか言ってただけで、文句は出なかったんですが、いまは文句が言えるんですよ。」
 
「人間が自然を管理する場合、いろんな問題をはらみながら、『これこれの理由でこうするのが正しいと思う』をちゃんと説明したうえでやらなければならない。そして人間はたかがしれているから、どうしてもまちがってしまう。まちがって当たり前なんだから、それに気づいたときにすぐに修正できるかが問題なんや。何かをする前に完全な理論構築は無理。自然の力のほうがずっと大きいのだから。」

 
 諌早湾の問題なんかも同じですね。人間が自由に決められるということはけっこう不自由な感じですね。水位を自由に決められるけど、決める能力を身に付けたら最後、決めるのを放棄できなくなる。「こうしたらいい」という完全な答えがなくても。
 
 「いまこのぐらいの割合でしか大丈夫とはいえませんが、やってみますか」と言ってやってみるしかないんでしょうね。
 
 
西川さん
「それで進むしかない!それでまちがっているのかなと思ったら『誤るにはばかる事なかれ』でやっていく。」
 
 その時その時は最善を尽くして、まちがいに気づいたときはすぐに修正する。なんか当たり前だけど何でできないんでしょうか。たぶん、「まちがえました」と言ったら、褒めてあげないとダメだと思います。「それ見たことか」となるから言えなくなってしまう。
 
 
西川さん
「行政の方とつき合うようになって分かったが、個人としてはみなさん優秀なのに、組織になると小回りがきかない感じ。修正がむずかしい。いったんゴーサインがでるとあともどりしにくい。なんでこんな話をしているのかというと、いまここに有能なお役人が向かってるんや。でもかなり型破りのお役人なんや。」
 
 えっ、さらに誰か来られるんですか?どういうこと!?
 もう、ずいぶん暗くなってきた…、あ!忘れてた!!写真! 12月のヨシを撮りに来たんだった!
 
  
 
 (次回につづく)
<薄暗い中、なんとか撮れました>

2002年3月20日(水)
NHK総合テレビの全国放送に
ヨシ博士が生出演!!!

 
 お昼、12時20分から43分までの「ひるどき日本列島」で、ヨシ舟やヨシ博物館などが生放送で紹介される予定です。当番組のベストヒットまちがいなし!?とぼくは太鼓判を押してしまいます。ヨシ博物館の学芸員的存在の尾崎さんや宮角さんも出演するかもしれません。いや、なんとしても出演してほしい。そして、びわこ市民研究所に所属している研究員としてがんばって(?)びわこ市民研究所をPRしてもらいたいものです。健闘を祈ります。

 
Copyright (C)2001 Biwako Shimin Kenkyusho all rights reserved