第5回
2002年8月8日 東恵子

ヴォーリズも食べた?「丁字麩(ちょうじふ)」
 「近江八幡は日本のへそ。世界の中心は近江八幡にあり」と語ったのは、生涯近江八幡を愛した建築家、ウイリアム・メレル・ヴォーリズ(1880〜1964年)です。市内には、近江兄弟社学園やヴォーリズ記念病院など、彼の建築物が数多く残っています。大阪・心斎橋「大丸」のレトロで美しい外観のデパートも彼の建築作品とは知りませんでした。

 そんな近江八幡っ子、ヴォーリズなら食べていた(と思われる)名物といえば「ふなずし」「近江牛」「でっち羊羹」「ういろ」「赤こんにゃく」など、たくさんあります。その中でも、私が「近江八幡名物」として全国の人におすすめしたいのが、健康食品としてテレビで取り上げられ、がぜん注目を集めているという「丁字麩」です。

 そこで今回は、私がこの町に嫁いで初めて知った丁字麩について調べてみました。

 まずは丁字麩の名前と形の由来から。近江八幡の町は、碁盤の目のように区切られた城下町。かつて、八幡城主・豊臣秀次公が「兵糧(ひょうろう=出征兵士の食べ物)には栄養のある麩はかかせないが、形が丸いのでかさばって携帯に困る。この町並みのように角型にして小路を表す印として、麩の表面に条線を入れておけ」と命じたところから四角く、丁と字(あざ)を表す線が入り、名づけられたのだそうです。

どうやって作る? 麩の工場を見学
 市内では、丁字麩や赤こんにゃくは、スーパーでふつうに売られています。ここでは「お土産物」でなく、市民の生活に密着した食べ物として食卓にのぼります。
近江八幡市内のスーパーでメジャーな食材として売られている「丁字麩」=スーパー「丸善」近江八幡店で
近江八幡市多賀町にある「麩の吉井」の工場で丁字麩が出来上がる工程を見学させていただきました。
 工場へ入ると、ぷーんと麩を焼く香ばしい香りがしてきました。中では2人の女性がこつこつと作業をしていました。

 小麦粉、塩、水をこね、水の中でもみ洗いするとデンプンだけが流れ、たんぱく質が残ります。これが麩のもと「グルテン」です。

 工場では、機械から取り出したおもちのようなグルテンのかたまりを包丁で切り、水にさらしてひも状に伸ばし、鉄製の焼き器で焼き上げ、完成するまでを手作りしていました。(焼かずに蒸すともちもちしたおいしい「生麩」になるんですって)

 丁字麩を作って7年になるという女性は「簡単そうに見えて、結構難しいんです。ベージュ色の良い焼き色にするのには季節や時間によって温度を調節しないといけない。今は(見学は6月半ばでした)1分くらいだけど、真夏にはもっと短くします。最初は失敗作もありましたよ」。と笑っていました。
おもちのようなグルテンのかたまり

グルテンを包丁で切っていきます。
切ったものを焼き器へ伸ばしながら入れます
温度や湿度などによって火加減を微妙に調整し、ようやく焼きあがった「丁字麩」
 おうちでは、一般的に食べられている辛し和えやすきやきに入れるほか、軽くあぶりトースト感覚でバターやジャムをつけて朝食替わりにすることもあるとか。

 お孫さんは、薄味の味噌汁の中に細かくちぎった丁字麩を入れ、離乳食替わりに食べていたそうです。おかゆの中にちぎって入れても栄養価が高くなり、病気の方にもおすすめとのことでした。

 「健康ブームで丁字麩の良さが広まってきていますから1年中忙しいけれど、大勢の方に食べてもらえるのが、なによりうれしいですね」と工場の女性たちははりきっていました。
 次に訪れた同新町店では、「丁字麩の辛し和え」を試食させていただきました。ここでは訪れたお客さんに試食サービスをしています。「ツアーで訪れる観光客の方は、あわただしく試食だけで帰って行かれることもありますが、『おいしかったので』とわざわざ買いに来られる方もいらっしゃるんですよ」とお店ではうれしそうに話していました。
キュウリとミョウガで上品な味に仕上がった「丁字麩の辛し和え」。

発想の転換で商品になった? 特製あんをはさんだ「丁字麩もなか」

 家で食べた「おふくろの味」もおいしかったけど、キュウリとミョウガが入った「ちょっぴりよそ行きの味」もまた格別。思わず、自家製合わせ味噌付きの丁字麩と、ミョウガを買って帰り、畑でキュウリを収穫して晩御飯の一品に加えました。

 
「麩の吉井(新町浜みせ)」
電話(0748)32-7773
近江八幡市新町1丁目