2002年5月16日 百木一朗
イトーキクレビオのトリノチェア 第1回  
 これからはものを作るのに、自然と共生できる作り方が大切だと思います。自然にお伺いをたてながらいっしょに作るような態度です。そう考えて『自然といっしょに作る』研究室を続けてきましたが、その中でも範囲を絞ろうと思います。
 企業のものづくりについてよく見ていきたい。製品が作られるとき環境にどのような注意を払っているか。ずいぶん成果が出ているところもあるようです。しかし課題も多い、開発担当者の悩みもあるでしょう。そういったことを企業を訪問して見せてもらい話をしてこようと思います。
第1回は(株)イトーキクレビオです。

トリノチェア

 
チェア工場の建物
 
椅子を持ち上げて、座面の構造を見る

 トリノチェアは環境への影響を少なくした新しいタイプの事務椅子である。これを開発、製造している(株)イトーキクレビオ、シーティング事業部へ行ってお話を伺うことができた。 同社はチェアやデスクなどオフィス製品のメーカーで、シーティング事業部チェア開発部門とチェア工場は近江八幡市にある。

 この椅子で特徴的なのは座面を支えている構造で、椅子を下からのぞき込むように見ると、割合い薄い座面が左右から張られていて、その下は空洞になっていることがわかる。

 座るところが、左右から吊られたハンモックのように浮いているしくみなのである。これによってクッションが得られる。そのおかげで 中に入れているウレタンを、厚さで従来の約二分の一、密度でも二分の一、だから結局四分の一の使用量に減らすことができた。 しかも座り心地は「浮いているような」従来より良いものになっている。

  従来のチェア(現在売られている大半のチェア)ではウレタンが厚いうえに、それをを受けとめる固くて分厚い樹脂の台座が必用だ。 しかし、トリノでは上記のような構造に変えたため、ウレタンも受け止めるものも両方が薄いものでよくなったのである。

 これだと材料費も少なくてすむということになるだろう。
「このチェアに限らないんですが、コストを下げて環境にも良い、ということが可能なんです。また、そうしていかないと続けられませんから」 同社の小川正道シーティング事業部長はそう語る。

 従来は、企業が環境に対応するとコスト高になる、と言われてきた。お役所に指導されるし、少しコストがついてもしかたがないと、しぶしぶやってきた会社もあるだろう。しかしそういうことでは進歩が少ないと小川さんは言いたいのだ。
「製造するときもそうなんです。例えば、塗装をするにも、ある数を塗るのに1時間かかっていたものを生産性を向上させて50分で塗装すると、燃料も少なくてすみ、空気を汚さなくてもすむということになるでしょう」

 また、吹き付けで塗装するとき塗料はまわりに飛ぶため、品物に実際に付くのは半分くらいでしかない。付かずに落ちたものは産業廃棄物になってしまう。これを工夫して60%、70%付くようにすれば、塗料の無駄を減らせる。塗装以外でも、そういう小まめな努力を積み重ねる。 環境を汚さないし、コストも助かるわけだ。

 このように、「製品にしても工場運営にしても環境とコストダウンは両立できるんだ。だからどんどん推し進めていこう、というのがうちの会社の基本的な姿勢です」
 

(つづく)
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