「トリノチェア」の樹脂使用の様子がよくわかるカット見本を出してきてもらった。実物の座面を切ったものだ。チェア開発室長の邑上敦郎(むらかみあつお)さんが見本を手にして語る。
「こちら(写真上)が今までのチェアの例なんですが、ウレタンがこれくらい厚くて、台座もこんなに分厚く固いものが必要でした」
椅子の脚から伸びた柱にしっかりした台座が乗り、その上にウレタンが乗っているという構造だった。ウレタンは大抵の椅子に使われていて、これを使えば簡単に柔らかなクッションが得られるので、メーカーには大変便利ではある。
しかし、ウレタンは再生できない樹脂で、廃棄されたとき圧縮しようとしても跳ね返ってくるし処分に困るものなのだという。環境に良くないため減らしたい材料だった。トリノチェアでは座面をハンモックのよう吊るす構造によってクッション効果を得て、このようにウレタンを薄くすることができた。
「台座の代わりにウレタンの下にはインナーシェルというものが あります。ハンモックに相当するものです」これは柔らかく、しなるようなものでなければならない。だからスリットをたくさん入れるなど複雑な設計がしてある。
実際にすわってみると、今までの椅子とは違ったクッション感で快適だ。かといって、フワフワ柔らかすぎるということもない。
邑上さんは「材料を環境にいいものにしたと言っても、すわり心地が悪くなったならどうしようもない。快適に座って仕事に集中してもらえる。そこは椅子屋として絶対ゆずりません」
ウレタンを減らしたのと並んで、トリノチェアでは他の樹脂材料も大幅に見直した。 比較的環境によいとされるポリプロピレン(PP)に切り替えできるものは切り替え、再生プラスチックも使用している。
グリーン購入法(*下記注)の適合商品になるには、再生プラスチックを10%以上使用することが条件になるが、これにも適合している。
「実は トリノチェアの開発は、 グリーン購入法が作られる前からスタートしていました。だから、環境に取り組むにもそのころ基準のようなものはどこにもなかった。それで再生プラスチック以外にも自分たちで会社で考えて、それに向かってやったんです」「それが、まあ言えば高いハードルを設定していたようで、法律ができた時それはもう既にクリアしているな、ということがわかったんです」
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