日本の元気なきずなプロジェクト

第3回  「ぼてじゃこ」から、琵琶湖や子どもの未来につながっていく
2012年9月28日 菱川貞義

 当初、われわれの活動は「ぼてじゃこを救いたい」という1点で始まったわけだけど、ところが、ぼてじゃこという魚のことだけを考えていてもどうにもならないことがわかった。

 

ぼてじゃこが住んでいる環境のことまで考えないといけないし、同じ環境にいる人間が無関心な状態では、やはり、ぼてじゃこは救えない。それと、活動は長期にわたるので、運営を若い人たちにバトンタッチしていくことも考える必要が出てきた。
現在は、山や川や田んぼで活動している人たちと、いっしょに勉強しあって、協力しあって、やっています。

片岡庄一さん
  「地域の環境、地域の生態系は、地域に住む者たちで守る」という風土が高まればと願い、仲間と共に、学校や各地の観察会や環境学習に、年間20〜30回の指導に積極的にかかわってきました。

 今では、近江八幡市、大津市、東近江市の、小学校、企業、農林水産団体、ボランティア団体などとの連携が生まれています。
 当初の活動は、各地域での生物調査が主だったのですが、生物の生息状況が把握できてくると、次はこの環境を子どもたちに伝えよう、という思いになり、子どもたちに「楽しく川遊びをしながらその地域の自然に触れ、興味を持ってもらいたい」と考えるようになりました。
 ところが最近の子どもたちは「川で遊ぶ」ということを知りません。川遊びできる川が少なくなったことも確かですが、よく調べてみると、子どもたちの「親」が川遊びを知らない世代になってきていました。これでは子どもに川遊びの楽しさが伝わらないので、2、3年前からの観察会では、可能な限り「親子」で参加してもらい、一緒に川遊びをしてもらっています。これにより、子どもの目は輝き、大人も自然とのふれあいの楽しさを感じ、毎年の観察会を楽しみに参加してくれる「親子」が増えてきました。

本田喜裕さん
  ぼてじゃこワンパク塾は親子会員が対象であり、前身は平成17年に、「雑魚捕り、雑魚釣りなどで川に親しんでもらうことにより、自然の大切さを理解し、好きな生き物が残って欲しい、と思う大人になること」を願って、ぼてじゃこトラストの大人会員に面倒をみていただきながら活動を開始したのがはじまりです。

 そして平成22年に、自主的に活動を行うことを目指して「ぼてじゃこワンパク塾」と名前を改めました。私はその時より指導部長としてお世話をさせていただいております。
 雑魚捕り・雑魚釣りを楽しんでもらうほかに、力を入れていることがあります。一つ目は「自然」を楽しみ、「自然」を知ってもらうことです。自然は面白いことをたくさん与えてくれますが、必ず危険も伴います。足場が悪く転んだり、川で滑ったり、草で切ったり、危険はさまざまな所に潜んでいます。このようなことを経験することでたくましい子どもになって欲しい、と思います。二つ目は協調性を持ってもらうことです。会員の子どもは0歳児から高校生までいます。大きい子どもが小さい子どもの面倒をみて教えることで、集団において各々の役割を自然と理解し、協調性を持つことができます。
 そうして、自然を大切にするたくましい子どもたちが育ち、次世代に繋いでくれれば、と願って活動を行っています。

ぼてじゃこトラストとは

 イギリスのナショナルトラスト運動にあやかった名前をつけていますが、多様な生物が棲む環境を丸ごと引き受けて保護するような大きな仕事は私たちにはできません。ただ、ここ数十年のあいだに起こった琵琶湖の自然破壊、特に魚類が減少していく中で、子どもの時の良き遊び相手ともいえる、ぼてじゃこが絶滅の危機に瀕しているのを見過ごすわけにはいきません。

 そんな思いをもつ「ぼてじゃこトラスト」は、1996年に竺文彦(龍谷大学教授、現顧問)が、ぼてじゃこが棲める豊かな自然環境を守るために設立しました。「フィールド活動が中心、楽しみながらの活動がモットー!!」をスローガンに掲げ、滋賀県大津市瀬田につくったビオトープ池を活動拠点として、県内全域で魚調査や自然体験活動を行っています。
 会員は約60家族160名で、0才〜80才までの幅広い年代層と、専門家、魚捕り名人、虫博士、川遊びの達人など個性豊かな会員が多く、3つの指針を掲げて積極的に活動しています。

@生態系保全活動 − イチモンジタナゴの繁殖保存
A親子で楽しむ、ぼてじゃこワンパク塾の活動
B観察会指導や出前講座などを通じ、他団体との協働や地域活動支援


会員募集!!

童心に帰って・・ お孫さんと・・ 親子一緒に・・ 雑魚捕り、川遊びを楽しみたい方は大歓迎します。

イチモンジタナゴ野生復帰に向けた活動

 一昔前まで広く親しまれてきた「ぼてじゃこ」も今や希少種。なかでも一番絶滅が心配されるイチモンジタナゴを野生復帰させたい、という思いで2007年から実験をはじめました。

 琵琶湖博物館やタナゴ研究者北島淳也氏のご指導のもと、増殖技術を蓄積しながら自前のビオトープ(ぼてじゃこビオトープ)の設置をはじめ、企業ため池(叶 匠壽庵・寿長生の郷ため池)、大津市逢坂小学校及び上田上小学校のビオトープ、オムロン(株)野洲事業所のビオトープ、近江八幡市北里小学校とメダカの学校小田分校のビオトープを連携した取り組み等、イチモンジタナゴ増殖のネットワークの輪を少しずつ広げながら、現在数千匹まで確保できました。
 なかでも、ぼてじゃこビオトープは、2009年4月に安定的繁殖保存の拠点として設置したもので、会員の憩いの場であり、子どもたちの遊び場として、みんなで大切に維持管理しています。
 今後は、魚類学会の放流ガイドラインに沿って、イチモンジタナゴを絶滅危惧種の野生復帰の先駆的事例とすべく、会員一同熱意に燃えています。

 


つづく