日本の元気なきずなプロジェクト

第7回  山と人とのつながりを、次の世代に引き継ぎたい
2013年11月10日 菱川貞義

山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会

長浜市西浅井町山門に山門水源の森があります。日本海と太平洋の両方からの風を受け、生物多様性に富む、山門水原の森。氷河期の生き残りも見られる貴重な湿原。これらを次の世代に引き継ぐために活動しているのが、「山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会」です。1987年に山門湿原研究グループが地質・植生・昆虫等について調査をしたことが契機となり、今日まで地道な活動が展開されてきました。

森は、ブナ林・ミズナラ林・アカガシ林・コナラ林・アカマツ林・スギ・ヒノキ林の多様な林で構成されており、暖帯のアカガシ林と温帯のブナ林が隣接している大変珍しい森です。森の中心には、近畿でも珍しい高層湿原である、山門湿原があり、貴重な植物が残っています。

山門水源の森
山門水源の森全景

 

竹端康二さん(会長)

わたしは、ずっとここに住んでいて、山ともかかわってきましたので、役目として、昔と今のちがうところを伝えています。
なぜ今は山が荒れてしまったのか。昔は山の手入れが順番に成されていたんです。大きいのを順番に切って、小さいのは残しておき、山を末永く使うようにしていた。それで、昔は日がよく当たって、ササユリなんかがものすごう咲いていました。
今は少しも見られなくなってしまった。でも、下草を刈ったり、手入れをしていると、眠っていた種が芽吹いたり、7年後に花が咲いたり、そんなことをみんなに知ってもらいたいんです。とくに子どもたちには、このような不思議を目の当たりに体験してほしい。
活動は楽しく、長きにわたり継続できていますが、問題は、もともと高齢の参加者がさらに年をとって、だんだん参加者が減ってきていることです。わたしも年をとり、足腰が弱くなってきた。もう、みんな70、80を超えてます。若い人にはやく引き継いでもらわんといかんな、と、皆と話しています。

 

橋本勘さん(理事)

ここでの活動は五年目ですが、会のなかでは、わたしは若いほう、というか、いちばん下っ端です。山の活動をもっと続けよう、とか、いつになったらやめよう、とか、そういうのはなくて、もう生活の一部になっています。山では作業もしますけど、ぼくにとっては、大切な観察する場所になっています。何もないようで、見る人が見るとすばらしく変化しているのがわかるんです。
最初にここに来たときは、たくさんの人に来てもらいたい、と思っていましたけど、ここは植物園ではなくて、人とのかかわりのなかでバランスを保っている森なので、たくさんの方が来られると、かえって荒れることにもなる。来てほしいけど、あまり来てほしくない、という気持ちなのですが、気軽に連絡いただき、参加してほしいです。

 

藤本秀弘さん(事務局長)

ここは、ちょうど日本の南と北の中間点なんです。絶滅危惧種とか、貴重な生物群あり、生物多様性のある貴重な資源だと認識されてきました。
基本的にはここは炭焼き山で、何百年ものあいだ、炭焼きで山と共生していました。自然と人とのかかわりはものすごく密接だった。だから、人は山を大切にしてきたんです。かかわり合いがなければ、森を大事にしよう、という発想は出てこない。残念ながら今は後者の時代。人間として、動物としての感覚が退化しているように思う。幸い、まだ、ここにはそういう自然があって、仕事をしながら自然を体感していけば、生活スタイルも変わるんじゃないか、と感じています。
自然と、よくかかわって、どうしなければならないかを、どれが人間らしい生き方かを、若い人も何回かここへ来たらわかると思う。毎月来ている人もいるが、それは何度も来ることでわかることがあるから。忙しい、忙しい、と言っている人も、ここに来れば時間が止まる。その雰囲気、感覚がものすごく大事だと思います。たくさんの人が一度来てみる、というのではなく、少しの人が何度か来てくれるほうがいいんです。


左から、橋本勘さん、竹端康二さん、藤本秀弘さん

 

 

本会の活動をまとめた書籍(サンライズ出版刊)


活動紹介

毎月第3土曜日は保全活動の日です。9月は会員10人と地元中学生12人。さらに、淡海森林クラブからの5人も駆けつけてくれました。台風18号は、北部湿原へ大量の土砂流入をもたらしました。その土砂の撤去や森の林床整理がメインの作業です。

この湿原は、ブナ、アカガシ、コナラなどが生える森林に囲まれています。1960年代後半まで、長い間薪炭林として利用されていた里山です。その後、人びとは炭焼きをやめ、湿原で芝生を生産しようと、土砂を入れたり水の流れも変えたりしました。幸いにしてその事業は中止されましたが、湿原は水が少なくなり、林になりつつありました。

 
それを10年がかりで湿原に復元しました。しかし、これからも続く湿原への土砂の流入を少しでも食い止めなければなりません。自然を相手に途方もない作業が続きます・・・。


ところで、保全作業は力仕事ばかりではありません。ミツガシワやササユリなどの植物を、シカ、イノシシ、ノウサギなどの食害から守るための網掛け、トタン張り、種まき、育種というのもあります。動物たちの食害から植物を守る、というのはなかなかむずかしいもので、次々と新しい工夫をしなければなりません。
 



地域の小学生ブナの植樹

 
また、年間5000人の訪問客のためのパトロール、コースの整備、ガイド研修なども怠れません。

地域のみなさんやいろいろな団体の協力もありますが、わたしたちは、まだまだ、微力です。今後とも多くの方のご理解、ご協力をお願いいたします。



地域の中学生・ボランティアの皆さんとササユリの播種(2012/11/9)

【お問い合わせ先】
山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会・事務局(担当:藤本)
電話 090-3487-0941/電子メール hide-n-c@mui.biglobe.ne.jp
滋賀県大津市穴太3-15-18 Webサイト http://www.digitalsolution.co.jp/nature/yamakado/ 

 


つづく